今年の6月、耳を疑う知らせが届いた。
長い友人で、バイオリニストの佐藤実治氏が小脳梗塞で倒れたというのだ。
小脳は躰の運動機能にとってなくてはならない器官。
円滑な運動のための運動学習の要。
平衡感覚の要。
しかも両側の小脳梗塞。
あるホテルでの演奏会のリハーサル後の控室で倒れていたところを妻が発見し、救急搬送したという。
知らせを聞いた時には絶望的だと思った。
ICUを抜けて一般病棟に移った彼に会いに行った。
車椅子で移動し、言葉は出ず、めまいもひどく、耳も十分に聴こえないとのこと。
ただ、手にはカメラを持ち、ただひたすらに写真を撮っていた。
ボディは富士フィルム社製のデジタルだが、レンズはVoigtländerのマニュアルレンズの50mm単焦点。
普通に考えればオートフォーカスレンズを使うところをマニュアルフォーカスで、
なおかつ開放F値の小さい単焦点レンズを装着している。
彼らしい。
いかにも彼らしい。
が、本当にこんな装備で両側小脳梗塞を起した人間が写真を撮れるのか?
にわかには信じがたい状況に半信半疑(疑いのほうが高い、もちろん)の状況に戸惑いつつも
面会を終えて病院を後にした。
数日後、Instagramにアップされた写真を見て驚いた。
言葉になんかできないほど、脳天から稲妻に打たれたような衝撃。
本当にいきいきとした、ポートレートがいくつもあがっていた。
「一度死んだ。もう一度もらった命。来世の分まで生きる。」
と彼は言い、再びバイオリンを持ち、チェロを新たに挑戦し、人前で演奏できるまでに回復し
写真も撮り続けてている。
奇跡という言葉はあまり好きじゃないが、これは本当に奇跡的な回復だと思った。
反省が趣味な彼は、今日もあれこれブツブツ言いながら新しいことに挑戦している。
そんな彼の写真展をここ、カフェまりちゃん家で開催いたします。
会期:2018年11月17日土曜日から2018年11月30日金曜日
時間:各日とも11時から16時
なお、会期中のうち、17,18,24,25日は本人のハンドドリップコーヒーがお楽しみいただけます。
ぜひ、お越しいただき、命輝く写真の数々を御覧ください。